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<2024年3月18日付納税通信第3815号 1面引用>
ウクライナ危機などの情勢不安や物価高騰、円安によって、金の価格が過去最高値を更新した。10年前の2倍以上に膨らんでいる。金は「有事の際に最も安全な資産」といわれ、金の保有は富裕層にとって強力な資産防衛術であると伺時に、ドル建てで取引される金は円安によって価格が上昇しやすいことから、魅力的な投資対象でもある。やり方次第では有効な相続税対策にもなる金投資に、資産家の熱い視線が注がれている。
3月6日から大阪市中央区の百貨店で開催された「大黄金展」は、11日に最終日を迎えた。仏像、仏具、和洋食器、置物など1000点以上の金製品が展示・販売され、中でも高さ2.6 メートル、重さ26.5キロの純金製レリーフ『昇龍』(参考価格16億5千万円)には多くの人が目を見張っていた。
さらに、会場で注目されたのが、金の店頭小売価格が3月4日に過去最高値を達成したというニュースを知らせる張り紙だ。同日には日経平均株価が史上初めて4万円台の大台に到達したが、金も同時に過去最高値、そして初の1万1千円台を記録した。金価格はその後も上昇を続け、地金商最大手の田中貴金属エ業の発表によれば、11日には日経平均が一時1100円以上値下がりするのを横目に、金の店頭小売価格は1グラム当たり1万1380円に達した。
金価格の上昇は、何も今に始まったことではない。田中貴金属工業によれば、今から約30年前1991年の金小売価格(最高値、以下同)は1826円だった。その後しばらくは1千円台前半で推移していたが、2005年に2千円を突破すると、その後は増減を挟みつつも上昇を維持。14年3月の最高値は4791円であり、この10年で金の価値は2倍以上になっている計算だ。
特に近年の金価格の高騰の背景にあるのが、ウクライナ危機や世界的なインフレへの懸念といった情勢不安だ。なぜ情勢不安があると金価格が上がるのが。例えば他の投資手段である株式は企業の業績だけでなく、経済的もしくは地政学的な要因から価格が大きく変動し、さらに経営破たんなどで会社がなくなれば価値がゼロの紙切れになる恐れすらある。その点、金には実物が存在し、それ自体に価値がある。しかも世界中どこでも同価値で換金でき、燃えてなくなることもないため、「有事の金(ゴールド)」として重宝されてきた。さらに採掘に費用がかかることから流通総量が限定されて希少価値が担保され、供給過剰による価格急落の可能性も低い。こうした事情を踏まえ、情勢不安ないま、富裕層の資産防衛術として金投資が人気を集めている。
さらに値崩れしにくいという「守り」の面だけでなく、「攻め」の観点からも金は注目されている。前述したように、金価格は長期的にみて安定した上昇傾向にある。もちろんこの先も同じである保証はないものの、上り下がりの激しい株や金融商品に比べれば、値上がりが期待できる投資先というわけだ。
こうした状況にさらに拍車を掛けているのが、目下急速に進行しつつある「円安」だ。世界の市場では、金はドル建てでの取引が基本だが、日本で金の売買をするときは、いったん米ドルから日本円に換金されることとなる。つまり円安であればあるほど、日本で金を買うときの価格は上がる。円安の進行が、金価格の歴史的な高水準を後押ししているということだ。実は世界的にみれば、金価格は必ずしも安定して上がり続けてきたわけではない。それでも日本市場において金の値段がじわじわと上がり続けてきたのは、円安による為替の影響が大きかったからだといえるだろう。
現金を金という資産に換えるときに、もう一つ見逃せないのが相続税対策としての効果だ。冒頭に紹介した「大黄金展」では、多くの純金製の仏像や仏具が展示・販売された。これには理由があり、国税庁のタックスアンサーで相続税がかからない財産として、「墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物」と定められているためだ。つまり現金であれば相続時には10割で評価されるものが、金の仏像やおりんなどに換えるだけで税負担が軽減されるどころかゼロになる。
「攻め」にも「守り」にも使え、相続税対策としての効果もある金への投資は、今後も富裕層の注目を集めそうだ。だがそれと同時に注意しなくてはならないのが、国税当局もまた金関連の申告漏れや所得隠しに目を光らせているという点だ。
当局の税務調査は近年、調査先を見極めて「どれだけ取れ高を稼げるか」に重きを置く傾向を強めている。効率化を追求する上では当然、「取りやすくて、しかもたくさん取れるところを狙う」ことになり、過去にない好況に湧く金業界はその筆頭といってもよい。そして業者に調査が入れば、調査官は当然、顧客名簿にも目を通すこととなる。金業界の顧客の多くは高所得者であり、これまた当局にとっては「取りやすくて、たくさん取れる相手」だ。しかも12年からは、個人が200万円を超える地金、金貨、プラチナを売却、あるいは他の貴金属などに変換したときは、販売業者に「地金等の譲渡の対価の支払調書」の提出が義務付けられている。つまり、買うときには何もないが、換金する際にはその動きを当局に捕捉されているということだ。金取引は当局に見張られていることを踏まえ、資産隠しや脱税のお先棒を担いでいるなどと見られないよう、取引記録をしっかり残して対応しておくようにしたい。また国税庁のタックスアンサーでは、仏具や仏壇には相続税がかからないとする一方で、「骨とう的価値があるなど投資の対象となるものや商品として所有しているものは相続税がかかります」としている。相続税対策のためだけに金のおりんをいくつも並べているようなケースでは、当局に否認されて高額な相続税を課される可能性がある点に留意したい。
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