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第30号 Jリーグも怒られた ”居住者・非居住者”の境界線 NEW!

2024年5月6日付 納税通信第3800号 1・4面引用>

 サッカーJリーグの複数クラブで11月10日までに、複数の外国人選手が国税局から申告漏れを指摘されていたことが分かった。いわゆる助っ人外国人を税負担の比較的軽い「非居住者」として処理していたが、実態に照らして「居住者」に当たると認定された。海外に生活の拠点を設けていたり、1年の大半を国外出張で飛ぴ回ったりしている経営者が、当局から「居住者」判定を食らって多大な税負担を課される例は枚挙にいとまがない。居住者と非居住者の境界線はどこにあるのか、過去の裁判例をもとにひもとく。

 ガンバ大阪や名古屋グランパスなどJリ-グの複数クラブが当局に指摘されたのは、いわゆる「助っ人外国人」選手について、所得税や住民税が契約実態に見合っていなかったという点だ。Jリーグではこれまで慣習として、助っ人外国人は税法上の「非居住者」として扱い、クラブ側が源泉徴収分も負担するという税務処理を行ってきた。これはリーグ開始当初、多くの外国人選手が1シーズンのみの契約で帰国するケースが多かったことが理由といわれる。この点について1999年6月にJリーグと日本野球機構が国税庁に確認したところ、①シーズンオフに居住場所を引き払う、②契約が1年以下③家族の帯同がないことのすベてを満たすことで、非居住者としての扱いが認められたのだという。だが近年では日本のサッカースタイルにフィットした外国人選手と複数年契約を結ぶケースも増えこれが当局から「居住者に該当する」と判断された模様だ。今回の事態を受けて、Jリーグ側は改めて全60クラブに対して居住と非居住に関する要件の確認徹底と適正な税務対応を求めた。

 今回のケースはプロスポーツという特殊な世界の話であり、当局による特例的な扱いが事の発端となったが、そもそもそうした特例を設けざるを得なかった背景には、税法上の「居住者」「非居住者」の判定が非常に難しいという根本的な問題がある。所得税法では、国内に住所があるか居住の場所を1年以上持つ個人を「居住者」それ以外の人を「非居住者」として扱い、両者では所得に対する課税範囲、税率が大きく変わる。「住所」の有無は生活の中心がどの国・地域であるかといった客観的事実によって判定し、また居住の場所はその人が現実に住んでいるか否かで判断する。住民票があるかどうかは関係なく、例えば生活の拠点が自宅ではなくホテル住まいだったとしても、それは住所になり得るということだ。

 非居住者であれば日本国内を源泉とする所得のみが課税され、税率も20.42%の分離課税で完結する。一方、居住者であれば国内だけでなく国外源泉所得もすベて課税対象となり、さらに税率も最高45%の累進税率に加えて10%の住民税の対象となる。非居住者なら税率が約20%にとどまるところを、居住者なら最高55%と、両者には3倍近い税負担の差が生じるわけだ。

 それだけに国内と海外を行ったり来たりする富裕層にとっては両者の境界線が気になるところだが、「住所」に関する明確な規定は税法に存在しない。そのため、居住者か非居住者かの線引きは、納税者と当局の間でたびたびトラブルになるポイントとなってきた。そうした数々の裁判例のなかから、少しでも判断のヒントを見つけたい。


【武富士事件】

 居住者判定を巡る最も有名な判例が、「武富士事件」と呼ばれるものだ。

 消費者金融の武富士の後継者が親から受けた生前贈与につい て、後継者は非居住者に当たるため課税はできないとされた裁判で、富裕層による”資産フライト”を当局が取り逃がした事例として知られる。

 武富士事件では、争点となった後継者は1年のうち約65.8% を香港で滞在し、日本滞在は約26.2%にとどまっていた。また香港ではアパー卜を2年契約で借りて住み、日本滞在中は自宅で生活していた。同社での業務内容をみると、複数の香港現地法人の取締役を務める一方、月1回ペースで日本に帰国して取締役会に出席するなどしていたという。裁判では、後継者の香港滞在は租税回避策として公認会計士から提案されたこと、日本国内に長く滞在した時期には早く香港に戻るよう指導されていたことも明らかにされた。

 一審では滞在日数などの客観的事実が重視されて後継者に軍配が上ったが、二審は「租税回避目的である以上、形式的な比較は不相当」として国側が逆転勝訴。しかし2011年の最高裁判決では「主観的に贈与税回避の目的があったとしても、1年のうち3分の2を香港で暮らしているという客観的な生活の実態が消滅するものではない」とし、納税者の逆転勝訴となった。司法は租税回避の意図があったとしても、明確な法律根拠が認められない以上は課税することは許されないとしたわけだ。

 この敗訴を受けて国税当局は、取りすぎていた税金1600億円に加えて利息に相当する還付加算金400億円を後継者に支払うこととなった。2011年に最高裁判決が下った後には国外財産調書制度(14年)、国外転出時課税(15年)、海外移住に関する納税義務期間10年への延長(17年)と矢継ぎ早に資産フライトを規制する制度見直しが行われており、いかに武富士事件が当局にとって屈辱的な敗北だったかがうかがわれる。


【ユニマット事件】

 2つ目に紹介るのは「ユニマット事件」と呼ばれる裁判で、同事件ではシンガポールに住む男が得た株式譲渡の所得について、男がシンガポールと日本のどちらに住所を持つかが争われた。男は日本で住んでいたマンションは解約しており、移住後にも日本にひんぱんに滞在していたものの寝泊りしていたのはホテルだったという。それぞれの滞在日数については、シンガポ-ルがわずかに多かったものの大きな差はなった。シンガポール渡航後も日本国内法人の役員として活動していたが業績は不調な一方、シンガポールでの業務は好調だったようだ。ただシンガポールで所有する資産はほとんどなく、日本には収益不動産や債券、多額の預金があった。

 これらの状況を踏まえて裁判所は、①帰国する都度ホテルに滞在し、出国する都度チェックアウ卜していたため、国内に住居といえる場所はない一方、シンガポールのアバー卜にはNHKのケーブルを引いて生活用品を置き、数年間継続して賃貸して居住していた、②日本での業務が不調である一方、シンガポールでの取引は多くの収益を上げることが期待でき、補助者3名も使用していた、③国内財産は債務超過の会社に対する持分や債権、さらには抵当権の都合から原告名義にしているだけの土地など国外からでも管理可能だった―などの理由から滞在日数に差はないものの男の住所をシンガポールと認めた。

 2008年の高裁判決では、「課税を回避するためにその住所をシンガポールに移転させたものとうかがう余地もあり得る」とする一方で、「客観的事実に基づき総合的に判定した結果、日本国内に住所を有していたと認めることができない」と述ベ、租税回避目的か否かによって住所認定は左右されないと結論付けている。


【シンガポール拠点裁判】

 最後に、比較的最近の事例として、19年11月に判決が下った裁判例を紹介する。この裁判で争った納税者は、日本と外国に複数の法人を設立し、日本の滞在日数は毎年100日前後、それ以外は日本と別に居住の場所があるシンガポールとアメリカに滞在していたほか、シンガポールを拠点にインドネシアや中国にも視察などで渡航していた。

 裁判で当局は、「国ごとの日数を見ると日本が最も長期だった年がある」として、日本が主な拠点であると主張した。しかし裁判所は、シンガポールを拠点にしてインドネシアなどの国に短期渡航を繰り返していることから、インドネシアなど他国での滞在もシンガポール滞在と実質的に変わらないとみなし、合算して計算するのが適切であり、その考えに基づくとシンガポールが主な拠点と言えるとした。

 資産の所在についても、資産のほとんどがに日本にあったことから当局は日本が拠点であると主張したが、裁判所は、日本国籍を持つ納税者が、妻や子がいる日本に最も多くの資産を持っているのは自然なことと一蹴している。資産の所在だけで居住者判定に大きな影響力を与えるわけではない例示として、「カリブ海の周辺地域に最も多くの資産を持っていても、日本に滞在して日本で経済活動をしている人は居住者として課税される」と付け加えた。また妻や子が日本にいることについても、妻たちの生活の便宜や子どもの教育上の配慮によるものであるので、居住者判定に大きな影響は与えないとした。当局は上告を断念し高裁判決が確定している。

 これまでに紹介した3つの裁判ではいずれも納税者が勝ったが、当然納税者が負けた事例も多く存在する。例えば昨年5月に地裁判決が下った例では、日本での滞在日数が1年のうち約74%を占めること、国外法人の業務に関しても国内にある本店ないし滞在していた国内マンションで報告を受けて指示を出していたこと、国内にほとんど資産がないのは過去に滞納処分の執行をたびたび受けていたに過ぎないことなどをもって、住所は国内にあったと判断されている。

 これらの事例から読み取れるのは、居住者か否かを判断する上で重要となる「住所」の判断基準として、①住居、②職業、③生計を一にする家族の居所、④資産の所在——が用いられ、さらにそのなかでも住居、滞在日数、業務活動の内容に比較的軸足が置かれているということだ。

 長引く不況もあってか、富裕層の"国外流出"は加速している。外務省の海外在留邦人数調査統計によれば、昨年10月時点での国外永住者は過去最高の55万7千人を数えた。10年前に比べて14万人の増加だ。コロナ禍でもこうした動きは止まらず、富裕層の海外移住をサポートするアエルワールド(東京・新宿区)によれば、コロナ前の18年からの4年間で売上高は2.4倍にまで急増しているという。永住までいかなくても、海外に生活の拠点を設けたり、国外での活動頻度を増やしたりしている人は多い。そうしたときに思わぬ税負担を課されぬよう、居住者と非居住者の境をしっかり見極めていきたい。


谷の私見
 所得税の居住者・非居住者の判定は難しいですね。「生活の本拠」が拠点の判断となるようですが、グローバルに活躍されている人にとっては、判断が難しいうえに各国でも考え方が異なる場合があるので、いわゆる「二重居住者」となってしまうことがあります。税額控除で二重課税を排除するよう税法も考えていますが、完全には二重課税を排除できないこともあります。
 移転価格税制も同様ですが、複数の国をまたがる課税の場合、どちらも自国を有利にしようとする考えが働くのは当然ですので、このような場合は納税者が予め予測して、税理士等の専門家へ事前相談するのが良さそうですね。

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