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<2023年10月30日付 納税通信第3795号 1、3面引用>
来年1月から贈与税の仕組みが大きく変わる。これまで”不人気制度”だった相続時精算課税にテコ入れが行われ、暦年課税と同様、年間110万円の控除枠が導入される。さらに死亡直前の駆け込み贈与でも相続財産に持ち戻されないなど、暦年課税をもしのぐ税優遇が設けられ、今後は相続税対策における『新定番』になるとの声もあるようだ。だが、比較的シンプルな仕組みである暦年贈与に比べて、相続時精算課税は複雑で利用する上で注意すべき点が多い。贈与税のリニュ—アルまで約2ヵ月となった今、相続時精算課税を今一度把握しておきたい。
資産家が次世代に財産を引き継ぐための重要な手法である「生前贈与」が大きく変わる。今年3月末に成立した2023年度税制改正関連法では、年間110万円までの生前贈与を非課税とする「暦年課税」方式の厳格化が盛り込まれた。同方式では、死期をさとってからの駆け込み贈与を防ぐため、相続発生までの一定期間内の贈与を相続財産に持ち戻す「持ち戻し」ルールがある。23年度改正ではこれを現行の3年から7年へ、現行制度の2倍以上の長さに延長した。持ち戻しの期間が倍増したことで、せっかく贈与した財産の大半を相続財産に持ち戻される可能性もゼロではない。今回の見直しに対応するには、持ち戻しの対象期間を考慮して一層早く生前贈与に手を付けるしかないが、それでも最大で受贈者1人当たり110万円が7年分、トータル770万円の贈与の節税効果が帳消しになりかねない。この持ち戻し期間の延長は27年1月から段階的に行われ、最終的に31年1月に持ち戻し期間7年となる予定だ。
「暦年課税」が使いづらくなる一方で、予想以上の拡充が図られたのが、もう一つの贈与方式である「相続時精算課税」だ。同方式は、生前に贈与した分に贈与者1人当たり2500万円まで贈与税がかからず、相続が発生した時にはすべてを相続財産に持ち戻して相続税が課されるという制度だ。これまでは暦年課税とは異なり完全に非課税とはならなかったことから、使いづらい不人気制度であり利用する人は暦年課税の10分の1にも満たなかった。それが来年1月以降の贈与からは、特别控除枠2500万円とは別に、受贈者1人当たり年間110万円の新たな控除枠を設けられることとなった。ここまでなら暦年課税と「110万円までは申告不要」というラインを合わせただけだが、さらに驚くべきは、この相続時精算課税の110万円の非課税枠については、持ち戻しの対象にならないことも決まった。つまり暦年課税については相続前7年分を持ち戻す一方で、相続時精算課税は死亡直前のものであっても"やり得"ということになる。これまでの暦年課税にすらなかった優遇であり、今後は相続時精算課税が生前贈与のスタンダードになるとの声は多い。
ただ、これまでの暦年課税のような感覚で単純に相続時精算課税に乗り換えるのは危険だ。同方式がこれまで不人気だったのは、決して年間110万円の非課税枠がなかったからという理由だけではない。暦年課税に比べて仕組みが複雑であり、気を付けなければ相続税対策が無駄になりかねないということを認識しておきたい。そもそも相続時精算課税には、暦年課税にはない様々な条件が課されている。相続時精算課税を使うには、贈与する側が60歳以上である必要があり、贈与を受ける側も18歳以上の子・孫・ひ孫などの直系卑属でなければならない。また贈与税は基礎控除110万円に加えて2500万円まで非課税ではあるものの、将来的に相続が発生したときには基礎控除110万円を除いた贈与分の全額を相続財産に戻し、相続税を計算しなければならない。「2500方円まで非課税」は誤りであると覚えておきたい。
そして相続時精算課税の”縛り”として一番大きいのは、一度適用すると同じ人からの贈与に関しては二度と曆年課税に戻れないという点だ。諸々の税メリットを検討して「やはり暦年課税のほうがよかった」と考えても、相続時精算課税を一度選ベば死ぬまでそれが続くため、「流行っているから」などという理由で相続時精算課税を選ぶのはやめたほうがいい。メリットとデメリットを鑑みたときに、どちらが得かが判断がつかないというのであれば、とりあえずの一手として暦年課税を使っておいたほうが無難だろう。なお別の人からの贈与であれば、暦年課税を適用するのは可能だ。
では相続時精算課税を適用したほうがいい場合とはどのようなケースか。例えば、値上がりが見込める賃貸不動産を贈与するケースなどが考えられる。相続時精算課税では、生前に贈与した分が2500万円までは贈与税がかからないが、相続が発生した時にはすべてを相続財産に持ち戻して相続税が課される。ここで重要なポイントは、不動産の評価額は相続時ではなく贈与時のものを採用するという点だ。つまり贈与時より相続時のほぅが評価額が上昇していれば、その分だけ節税になる。さらに賃貸不動産であれば、相続で受け継ぐケースに比べて、贈与時から相続までの間の賃料収入がそのまま財産の前渡しとなる。当然、その分は賃貸物件を受け継いだ側の所得となるため、相続税が課されない。また自社株の承継でも相続時精算課税がトクになるケースが想定される。将来的な値上がりが見込める自社株を渡したい場合に、現行ルールでは110万円の非課税枠を使いたいがために暦年課税を選んでいたという経営者もいるだろう。こ、つしたケースでは、相続の発生直前まで年間110万円の非課税枠が使え、値上がり分が相続税に反映されない相続時精算課税を積極的に選ぶべきだといえる。
一方で、相続時精算課税を使うのは控えたほうがいいケースは、例えばマイホームなと資産価値が目減りしていく可能性が高い財産が挙げられる。資産価値が落ちていく財産を相続時精算課税で贈与してしまうと、実勢価値にそぐわぬ高い相続税を課されてしまぅからだ。さらに相続税対策の定番である、土地の評価額を最大8割減らせる「小規模宅地の特例」は、相続で受け継がれた土地のみを対象とするものだ。つまり相続時精算課税で贈与した土地は、最終的には相続税で精算するにもかかわらず特例を使えない。同特例を使えるかどうかで相続税負担は大幅に左右されるため、この検討を抜きにして相続時精算課税を使うのはあり得ない話だ。
暦年課税に比べて相続時精算課税が大いに有利になるのは確かだが、利用を検討する際には相続時精算課税ならではの様々な"リスク"を計算することが欠かせない。どちらの方式を採用すべきか、税理士など専門家としっかり話し合い、賢く選択したい。
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