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<月刊所長のミカタ2023年11月号1・2面引用>
10月から消費税のインボイス制度が始まった。1ヵ月が経過して制度の問題点に対する指摘や反対運動が今一度の盛り上がりを見せているが、内容の是非はどうであれ、事業を営む以上は新制度への対応が不可避だ。経理処理の変更、それに伴う業務フローの見直し、そもそも免税事業者とどう付き合っていくかなど、やるベぎこと、決めるべきことは驚くほど多い。中小事業者が確認しておきたいポイントをまとめてみた。
複雑極まりないインボイス制度に対応するに当たっては、まず何をするべきかを整理するところから始める必要がある。そのポイントは大きく分けて、以下のようになる。
・インボイスの書式決定は行ったか
取引先だけでなく、事業所内に対しても取得したインボイス登録番号の周知が欠かせない。
・端数処理ルールを確認したか
1円未満の端数については「1枚のインボイスのなかでも、税率ごとに1回の端数処理」がルールとなっている。つまり個々の商品ごとに消費税額を計算して端数処理したものの合計額を記載するという処理はルールに反する。
・交衬するインボイスの写しの保存方法は決定したか
保存期間は「交付した日の属する課税期間の末日の翌日から2ヵ月を経過した日から7年間」。ただし保存するのは原本のコピーでなくても、記載事項が確認できる
明細表、一覧表などでもよいという。
・「返還インボイス」の発行の必要性の確認、交付方法を決定したか
インボイス発行事業者は、通常のインボイスだけでなく、返品や値引きに応じた際には「返還インボイス」も発行する必要がある。
ほかにも、
・交忖するインボイスについて、誤りがあった場合の対応方法は検討されているか
・取引先への登録番号やインボイス交付方法について連絡しているか
といった点を確認しておかなければならない。
これら6つのポイントを押さえた上で、より具体的な対応策を整理していきたい。
インボイスは消費税の仕入税額控除に必要な書類だから、控除を受けるために必須となる要件を満たさなければ意味がない。大原則として、インボイスは「求め」 に応じて交付されるものだから、仕入れの際には忘れず交付を求めなければならないということを認識しているだろうか。こちらから求めなければ取引先は インボイスを発行しなくてもいいという前提を押さえておかないと、インボイスに対応しようがない。
仕入税額控除を受ける準備
具体的なインボイス対策としては、以下の対応が必要になる。
(1)必ず記載要件を満たしたインボイスを受領する。 この点については実際に書類を受け取る従業員への徹底が欠かせない。
(2)インボイスか否かの判定方法の確認、帳簿記載方法や区分経理について確認する。
(3)取引先の登録番号を確認する。特に対応が不明確な個人事業者など小規模業者の確認作業が重要となる。
(4)会計システムへのインボイスに係る入力方法を確認する。
これらに加えて、電子取引があるなら来年1月に始まる改正電帳法の「電子データ保存の義務化」への対応も視野に入れておきたい。 例えばネットショッピングを利用する際のインボイス交付方法を確認しているか、 クレジットカード決済やETCカード決済の場合のインボイス対方法を確認しているかなど、チェックすべき項目は多岐にわたる。
インボイスがない取引への対応
家賃や駐車場、リース取引など、請求書や領収書がその都度交付されない取引でも、インボイス保存は必要だ。契約書と取引の事実をを示す通帳のコピーや振込明細書などを
併せて保存し ておかなければならない。さらに契約書については、 インボイス制度前に締結し た契約書だと登録番号や適用税率といった必要項目の記載が当然不足しているため、
登録番号の通知書・メールを受領して保存しておくなどの対策を講じでおきたい。また口頭契約であっても契約自体は存在するので、これについても通知書・確認書などによって、登録番号や消費税率を通知しておく必要がある。
免税事業者へのインボイス対応
仕入先が免税事業者でインボイス制度に対応していない場合には、取引自体の継続・停止を判断する必要が出てくる。取引先ど交渉する際には、独占禁止法、下請法、建設業法などに違反することがないよう、コミュニケーションを密にとりたい。このテーマについては「こうすれば完璧」(などという手法は存在しないため、相手先との関係性や今後の経理処理方針などを踏まえてベターと思う道を進むしかない。
実際の経理処理も極めて煩雑に
複数税率ごとの税額を詳細に記録して、やり取りしなければならないインボイス制度は、そもそも複雑な制度だが、それに追い打ちをかけるのが、駆け込みで導入された様々な経過措置や特例の存在だ。事業者にとって税負担が少しでも軽減されるのはありがたいことだが、その一方で事務処理は複雑になる。どの特例を選択するかで帳簿記載のやり方も変わってくるので、まずは適用する特例を決めなければいけない。
少額特例
「少額特例」は、事務負担の軽減措置として導入されるもので、税込1万円未満の課税仕入れが対象となる。課税売上高が1億円以下の中小事業者だけに適用される。インボイスの保存がなくても消費税の仕入税額控除除ができる。取引先がインボイス発行事業者であるかどうかは問わない。この特例を適用すれば、「インボイスの保存」という面倒な業務から一定期間ではあるものの解放される。ただし、インボイス発行事業者としての交付義務が免除されているわけではない点に気を付けたい。取引先からインボイスを求められた場合には交付義務を負う。少額特例は2029年9月末までの課税仕入れが適用対象となる。
帳簿のみ保存特例
「インボイスの保存を要しない特例」、つまり帳簿のみの保存で特例の要件を満たす取引も押さえておき たい。同特例の対象となるのは、3万円未満の公共通機関の交通費や従業員に支給する出張旅費などだ。 これらの取引はインボイスをいちいち受け取ることが難しいため、特例が設けられている。ただし、これらの取引についても既存の帳簿記載事項に加えて「取引の相手方の氏名または名称および住所または所在地」の記載が必要となる。これらの特例では、免税事業者相手の取引の仕入税額控除を制限する「仕入税額控除の経過措置」の適用を受けないという利点がある。例えば売上高1億円以下の中小事業者が税込1万円未満の取引を行った場合に、手元にインボイスがなかったとしても、仕入税額相当額の80%ではなく100%を控除できる。
旅費交通費の扱い
前述したように、1万円未満の支払交通費は「少額特例」の対象となる。また1万円以上3万円未満の公共交通機関への料金支払いについても、「帳簿のみ保存」の対象となる。公共交通機関の住所や所在地の記載は必要ない。つまり公共交通機関への料金支払いが3万円を超えた場合にのみ、インボイスの保存と帳簿への法定事項の記載が必要になるわけだ。
では「帳簿のみ俣存」の対象となる出費のうち、出張旅費はどう扱うか。出張旅費は、従業員が出張し、旅費規程により精算を行うものを指し、その金額が「通常必要」である限りは「帳簿のみ保存」の対象となる。1万円未満なら少額特例の対象となり、1万円以上であれば帳簿へ法定事項とともに「出張旅費特例」などと記載する。ただし事業者が直接交通機関へ支払っているケースでは、「出張旅費特例」が適用されない。それでも3万円未満の料金支払いであれば「出張特例」ではなく「公共交通機関特例」として「帳簿のみ保存」の対象になるが、3万円以上の支払額であったり、ホテル代やレンタカー代の支払いであったりすると、インボイスの保存と法定事項の帳簿記載が必要になってく る。何ともややこしい話だ。
さらに混乱させるケースもある。受け取った請求書などがインボイスの適格要件を満たしていなかった場合、それが区分記載請求書であれば「80%控除」などの記載で仕入税額控除の経過措置が適用される。しかし、インボイスでも区分記載請求書でもないケースでは、経過措置が適用されず、 仕入税額控除の対象から外されかねなぃ。
保存がない取引
「インボイスの保存がない取引」では経理処理にも注意が必要だ。インボイス発行事業者ではない免税事業者、そしてインボイス登録をしていない課税事業者などからの仕入れは、原則として仕入税額控除の対象にはならない。このとき実務で気を付けたいのが「仮払消費税等」の扱いだ。税抜経理方式を採用しているケースでは、仮払消費税等は仕入税額控除の適用を受ける消費税等なので、インボイスの保存がない課税仕入れでは仮払消費税等に区分する金額がないことになる。ただし、今年10月からの3年間および26年10月からの3年間については、経過措置によってそれぞれ80%、50%に相当する金額が仕入税額控除の対象となる。従って仮払消費税等に計上する額もそれぞれ仕入相当額の80%、50%になる。 会計システムがインボイスに対応していないなどの理由で、インボイスがない課税仕入れを仮払消費税等に計上してしまった場合の対応策としては、決算時に雑損失として振り替えれぱよいと覚えておきたい。
インボイス制度がスター卜した後でようやくやるべきことの多さや煩雑さにはじめて気付いたという経営者も少なくないはずだ。国税当局はインボイス制度について「軽微な記載不備については税務調査は実施しない」との方針を示しているが、それは決して「不備のままでも構わない」ということではない。税理士などの力を借りながら、複雑極まりない新制度に対応していきたい。
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