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<所長のミカタ 2003年8月号1、2面引用>
固定資産税の過徴収が止まらない。
2014年に過徴収によって自宅まで差し押さえられたケースが判明したことから問題となり、総務省が全国の自治体に実態を確認するよう異例の通知を出すに至ったが、それから約10年経った今でも毎週のように過徴収が発覚している。自治体が一方的に税額を通知してくる固定資産税は土地オーナーとしても誤りを見つけづらく、また禍徴収されていた期間が長期にわたると全額返還されずに”泣き寝入り”となってしまう。あなたもまた、知らぬ間に税金を取られ過ぎている可能性がある。
固定資産税などを約20年間も過大に徴収されたとして、土地オーナーらが納め過ぎた税金約1億円の全額返還を大阪市に求めた裁判で、大阪地裁はこのほど、原告の訴えを退ける判決を下した。自治体側に「明確な注意義務違反はなかった」として、地方税法で定める原則の時効である5年分のみの返還を命じた。
大阪市は固定資産税の算定において、1つの土地の中に異なる容積率が混在する場合、土地の評価額を最大で34%減額補正できるとする特例を設けていたという。しかし原告らの土地では少なくとも20年にわたり特例が適用されず、過大に固定資産税や都市計画税を徴収されていた。所有者らが2018年以降に大阪市に申し出たところ、市は地方税法が定める還付の時効に従って5年分を返還したが、土地所有者らが「市が調査を怠っていたことが原因である」 として、国家賠償法の時効である20年分の返還を求めていた。
大阪地裁は判決で、「市の規定は、容積率が混在する土地について価格の差が著しい場合にのみ適用されるもので、本件はこの場合に該当することが明らかとは言えない」とし、大阪市に明確な注意義務違反がない以上、時効の5年を超えて返還する義務はないと結論付けた。原告側は控訴を検討しているという。
納税者が自分で税額を計算して申告納税する所得税や法人税、相続税などと異なり、固定資産税は、自治体が一方的に税額を通知する「賦課課税方式」を採用している。納税者は通知書に書かれている税額をそのまま納めるため、税額の正確性に関心を持ちづらく、計算ミスがあったとして気付きにくい。
だが、固定資産税の過徴収は決して他人事ではない。総務省が過去に行った調査によれば、2009年~11年の3年間に担当者の計算ミスなどで固定資産税の減額修正を行った自治体は、なんと全体の 97.0%に及んだ。年によってバラツキはあるものの、納税者の数でいえば毎年10万〜20万人が過徴収の被害者となっている状況だ。固定資産税の過徴収がにわかに注目されたのは、14年に埼玉県新座市で発覚した、夫婦から27年間にわたって本来の2倍超の固定資産税を徴収していた事例だ。
夫婦は、税金の滞納によって自宅を差し押さえられた。過徴収に気付いた市が条例に基づき10年分を返還したものの夫婦は自宅を取り戻すことができなかったという。
その後、同市が調査を進めると、他にも過去20年間で約3千件、計3億2千万円の過徴収を行っていたことが発覚した。
”新座事件”は大きな波紋を広げ、この事件をきっかけに全国で長期間にわたる過徴収が発覚すると、事態を重く見た総務省は全国の自治体に注意と再確認を呼び掛ける通知を出すに至る。通知に従い自治体が自発的な確認を行った結果、次から次へと全国で過徴収が判明し、過徴収が決してレアなケースではない状況が浮き彫りとなったわけだ。
過徴収が発覚した自治体では、本来なら定期的に行うべき実地調査をまったく行っていなかったり、課税台帳への入カミスが10年以上放置されていたり、担当者の異動時の引継ぎがほとんど行われていなかったりと、税務行政のお粗末さを露呈した。
だが新座市の事件をきっかけに自治体が意識を改めて状況が改善したかといえば、決してそんなことはない。日本経済新聞が19年に報じたところによれば、事件があった14年度以降も、全国の主要都市における固定資産税の過徴収の還付金の額は毎年70億円程度で変わらず推移していたという。
そして今年に入ってからも、いまだ多くの過徴収が発覚している。例えば埼玉県川越市では今年3月、37年間にわたり400万円超の過徴収をしていたことが判明した。権利関係変更に伴う評価の見直し作業で初めて判明したという。また福岡県大牟田市では、04年に亡くなった女性の銀行口座から18年にわたって固定資産税を引き落とし続けていたことが発覚している。
これらの例からも分かるとおり、固定資産税の過徴収が恐ろしいのは誤りが長期間にわたりがちなところだ。先に紹介した新座事件の27年をはじめ、今年判明しただけでも川越市が37年、大牟田市が18年、その他にも群馬県榛東村25年、岩手県奥州市18年など、多くの自治体で10年を超える過徴収が発覚している。本人のあずかり知らないところで、何十年にもわたって税金を多く取られ続けている可能性があるわけだ。
そして過徴収が長期聞にわたるということは、同時に、後からミスが判明して正されたとしても、過徴収された全額を取り戻すのが難しいということを意味する。
過大に納めた税金の還付に関する時効規定は、地方税法18条の3にあり、原則的に「5年」と定められている。そのため、どれだけ長期間にわたる過徴収があっても、冒頭に紹介した大阪市の裁判のように、法的には5年分の返還しか自治体側には義務付けられていない。ただし5年の時効はあくまで通常の還付手続きなどを念頭に置いた規定で、自治体側の一方的なミスについては地方税法417条で「重大な錯誤があることを発見した場合においては、直ちに(中略)価格等を修正して、これを固定資産課税台帳に登録しなければならない」と特に明記されている。大阪市の裁判では、この要件を満たさないとして5年超の賠償が認められなかったとみられる。
実際には、多くの自治体では「過徴収金返還要綱」と呼ばれるルールを定め、5年を超える過徴収についても返還する方針を探用しているケースがほとんどだ。要綱に規定する時効は自治体にもよるが、7年、10年、20年などまちまちで、近年多発している固定資産税の過徴収事例では、この要綱に従って返還期間を決めるケースが多い。しかしそれでも過徴収が長期間にわたると、全額は返還されないことがほとんどだといえる。期間を過ぎた分は”泣き寝入り”せざるを得ないということだ。
全国で過徴収がいっこうにやまないことを受けてか、より被害者を救済する方向の判例が出ていることも確かだ。大阪市を舞台に行われた20年の裁判では、最終的に原告側の主張を全面的に認める最高裁判決が下されている。この裁判では、大阪市側のミスによるルールの不適用があったと認定した上で、国家賠償法で定める20年を超える賠償を求められるかが争われた。裁判では、不法行為があった時から20年を超えた分は賠償の対象から除かれるとする「除斥」の規定が適用されるタイミングがいつになるかが焦点となり、最高裁は「毎年、納税通知書が交付された時点で(除斥の起算点が)発生する」とする初の判断を下し、原告の主張に基づいて固定資産税の過大徴収がどれだけあったか審理をやり直すべきだとして、20年超、トータルで約71億円の返還に至った。
ただ、この裁判のように20年を超えて全額の返還が認められたのは、あくまで現状ではレアなケースに過ぎない。原則どおり5年で打ち切られる例も多く、仮に長期間にわたって返還が認められたとしても、本来は手元にあるべきだった資金が”塩漬け”にされた事実は、額面以上の損失を生んでいるともいえる。
毎年10万件程度の過徴収が発覚していることを思えば、今も気づかずに過大徴収をされている土地オーナーが想像以上に多いはずだ。そして固定資産税の過徴収は、時効の問題があるため、気づくのが遅ければ遅いほど損害が大きくなる。
総務省の調査では、特にミスが発生しやすいポィントとして、土地・家屋での「評価額」の算定ミスが最も多く、 次いで土地の「減額特例」の適用忘れ、家屋の「取り壊し」 の反映忘れが多いことが分かっている。素人がミスを発見するのは難しいため、土地オーナーはなるベく早く税理士や不動産鑑定士などプロのサポートを受けて、一度税額のチェックをしておくベきだろう。
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